アメリカにある美術館の紹介の第4弾です。
前回まで,アメリカ東北中部の美術館を5つ紹介してきました。
今回からは大西洋中部地方の美術館を紹介します。
アメリカの美術館を紹介するにあたって,独自のランキングをしています。
詳細についてはこちらをご覧ください。
アメリカの美術館32選!【デトロイト美術館】 mohamoha55
- ランキングした大西洋中部地区の美術館
- メトロポリタン美術館: The Metropolitan Museum of Art (ニューヨーク州ニューヨーク市)
- デンドゥール神殿: The Temple of Dendur
- チャールズ・エンゲルハード・コート:The Charles Engelhard Court
- サン・ゴーデン: Augustus Saint-Gaudens 「Diana」
- ダマスカス・ルーム:Damascus Room
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Self-Portrait with a Straw Hat」
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Cypresses」
- グスタフ・クリムト:Gustav Klimt「Mäda Primavesi」
- アンリ・ルソー:Henri Rousseau 「The Repast of the Lion」
- エドガー・ドガ:Edgar Degas「The Rehearsal of the Ballet Onstage」
- エドガー・ドガ:Edgar Degas「The Little Fourteen-Year-Old Dancer」
- ポール・セザンヌ:Paul Cézanne「Mont Sainte-Victoire」
- アメデオ・モジリアーニ:Amedeo Clemente Modigliani「Girl in a Sailor’s Blouse」
- ジョルジュ・スーラ:Georges Seurat「Circus Sideshow」
- ジャン=フランソワ・ミレー:Jean-François Millet「Haystacks: Autumn」
- ドミニク・アングル:Dominique Ingres「La Princesse de Brogli」
- エマヌエル・ロイツェ:Emanuel Gottlieb Leutze「Washington Crossing the Delaware」
- ウィリアム・ターナー:Joseph Mallord William Turner「Venice, from the Porch of Madonna della Salute」
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour「The Fortune-Teller」
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour 「The Penitent Magdalen」
- ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer「Young Woman with a Water Pitcher」
- エル・グレコ:El Greco「View of Toledo」
- ヤン・ファン・エイク:Jan van Eyck「The Crucifixion The Last Judgment」
- 尾形光琳「Irises at Yatsuhashi (Eight Bridges)」
- 伊藤若冲「White Plum Blossoms and Moon」
- 葛飾北斎「South Wind, Clear Sky (Gaifū kaisei)」
- 東洲斎写楽「Kabuki Actor Ōtani Oniji III as Yakko Edobei in the Play The Colored Reins of a Loving Wife」
- メット・クロイスターズ(メトロポリタン美術館・別館):The Met Cloisters
- ボパード・ルーム:Boppard Room
- ユニコーン・タペストリーズ・ルーム:Unicorn Tapestries Room
- フエンティドゥエナ礼拝堂:The Fuentiduena Chapel
- クロイスターの十字架:The Cloisters Cross
- 【閉館】メット・ブロイヤー (旧メトロポリタン美術館・別館) :The Met Breuer
ランキングした大西洋中部地区の美術館
1位 メトロポリタン美術館:The Metropolitan Museum of Art 通称:The Met <New York,NY>
2位 ニューヨーク近代美術館:The Museum of Modern Art, New York 通称:MoMA <New York,NY>
6位 フィラデルフィア美術館:Philadelphia Museum of Art <Philadelphia,PA>
7位 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館:Solomon R.Guggenheim Museum <New York,NY>
15位 フリック・コレクション:Frick Collection <New York,NY>
26位 ブルックリン美術館:Brooklyn Museum <New York,NY>
※ ホイットニー美術館:Whitney Museum of American Art <New York, NY>
大西洋中部地区にはニューヨークがあり,そこにはランキング・インされた美術館が6つあります。
そこで,ニューヨーク市にある美術館から紹介します。
ニューヨークの美術館と言えば,メトロポリタン美術館と近代美術館です。
それぞれ,1位と2位で「The Met」「MoMA」と呼ばれてますよね。
今回は,メトロポリタン美術館とその別館であるメット・クロイスターズを紹介します。
気が付いた方が多いと思いますが,ホイットニー美術館のランキングは※印になっています。
訳を説明すると,私がランキングの作業をしている時は,ホイットニー美術館はメトロポリタン美術館の別館だと思い込んでいたので,ホイットニー美術館の票をメトロポリタン美術館に入れてしまっていました。
調べてみると,ホイットニー美術館はメトロポリタン美術館とは関係のない美術館ということがわかったので,※印にしています。
ホイットニー美術館は,間違いなく32位以内に入っていたのは記憶しているので,紹介していきたいと思います。
さて,今回はメトロポリタン美術館のため,紹介するべき作品がたくさんあります。
どれだけの文字数になってどれだけ長くなるかちょっと不安なのですが,最後までお楽しみください。
メトロポリタン美術館: The Metropolitan Museum of Art (ニューヨーク州ニューヨーク市)
メトロポリタン美術館は,マンハッタンのセントラルパークの東に位置しています。
1870年に開館した私立の美術館です。
建物の正面のデザインは,自由の女神の台座やビルトモア・エステートをデザインした建築家によるものだそうです。
ビルトモアエステート…以前の記事で紹介しました。
ノースカロライナ州にある豪邸でした。
このブログでまだ一度も紹介していない「タールの付いた靴のかかと」の州の話 mohamoha35
それでは,まず,大きいものから紹介していきましょう。
デンドゥール神殿: The Temple of Dendur
ここは,デンドゥール神殿の部屋…というよりもホールと言った方がいいかもしれません。
エジプト美術のウィングにあります。
光や水で満ちた神々しさを感じます。
なぜ,エジプトの神殿がアメリカにあるのかというと,アメリカが奪ったわけではありません。
エジプトで水没危機だったヌビア遺跡をアメリカが救ったそうで,そのお礼としてエジプトから寄贈され,神殿ごと,ここメトロポリタン美術館に移されました。
この神殿はローマ皇帝アウグスティヌスが建てており,壁にはヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)が刻まれています。
チャールズ・エンゲルハード・コート:The Charles Engelhard Court
ここは,アメリカ美術のウィングにある「 チャールズ・エンゲルハード・コート:The Charles Engelhard Court 」です。
注目すべき作品が2つあります。
一つは,この画像のバックにある「壁」です。
なんと,「ウォール街:Wall Street」にあった建物の正面だけをここに持ってきました。
そのため,壁だけがウォール街のビルそのままになっています。
もう一つは,手前に写っているブロンズ像です。
サン・ゴーデン: Augustus Saint-Gaudens 「Diana」
サン・ゴードン:Augustus Saint-Gaudens
「ダイアナ:Diana」
1892–93
Bronze, gilt
チャールズ・エンゲルハード展示場の中央にあるブロンズ像です。
なぜ,この「ダイアナ」が必見なのかというと,このブロンズ像は1925年までマジソン・スクエア・ガーデンの塔に鎮座していたからです。
当時は,ニューヨークのランド・マークだったそうです。
マジソン・スクエア・ガーデンの移築とともに塔は解体され,「ダイアナ」はメトロポリタン美術館にやって来たのでした。
初めに制作されたブロンズ像はあまりに大きすぎて,塔には飾られなかったそうです。
その後,このハーフ・サイズに置き換えられました。
ダイアナは,ローマ神話の月と狩りの女神なのだそうです。
ダマスカス・ルーム:Damascus Room
ダマスカス・ルーム:Damascus Room
A.H. 1119/A.D. 1707
From Syria, Damascus
イスラム美術のコーナーにある「ダマスカス・ルーム: Damascus Room 」です。
オスマン帝国(現シリアのダマスカス)の大商人の邸宅で使われていた冬の迎賓の間をそのまま移動したものです。
かなり色が変わってしまってますが,当時は緑,赤,黄色とかなり鮮やかだったようです。
壁には,40あまりのイスラム教の詩が刻まれています。
メトロポリタン美術館には,他にもフランスやイギリスの邸宅の部屋,日本の書院造の部屋など,これまでの伝統的な建築様式の部屋があります。
日本の書院造の部屋の画像は,残念ながら著作権の関係で載せられませんでした。
フランスの邸宅の部屋には,マリーアントワネット(絞首刑されたあの方です)ゆかりの家具が展示されています。
他にも,イタリア・ポンペイの壁画をそのまま持ってきて展示されています。
現地の壁画よりも状態が良いのだとか。
それでは,お待ちかねの絵画作品を紹介していきましょう。
メトロポリタン美術館は,所蔵作品の画像のほとんどをパブリック・ドメインにしており,自由にダウンロードできます。
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Self-Portrait with a Straw Hat」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「Self-Portrait with a Straw Hat (obverse: The Potato Peeler)」
1887
Oil on canvas
ゴッホの「麦わら帽子の自画像:Self-Portrait with a Straw Hat」です。
多くの自画像を描いているゴッホですが,本作品は練習用キャンバスの裏側に描いています。
そのために,キャンバスの裏側の絵も鑑賞できるように展示されています。
裏側も見られるってすごくないですか?
self-portrait with a straw hat. photo by Martha Dear on Flickr(Noncommercial use allowed)
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Cypresses」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「糸杉:Cypresses」
1889
Oil on canvas
ゴッホは,同じ題材のものを数多く描く画家です。
ゴッホと言えば「ひまわり」のイメージで,何点も描いています。
同じように「糸杉」を題材として何枚も描いています。
メトロポリタン美術館には,他にも「糸杉のある小麦畑」があります。
ゴッホの晩年期の作品は,精神状態とは裏腹に実に躍動的です。
この渦を巻いた描き方が迫力があり,独特な存在感を醸し出しています。
糸杉は,「死」を象徴する木らしいのですが,ゴッホは知っていたのでしょうか。
グスタフ・クリムト:Gustav Klimt「Mäda Primavesi」
グスタフ・クリムト:Gustav Klimt
「メーダ・プリマヴェージの肖像:Mäda Primavesi」
1912–13
Oil on canvas
グスタフ・クリムトは,私が一番好きな画家です。
メトロポリタン美術館はクリムトの油絵を2枚所蔵しています。
クリムトと言えば,「接吻:The kiss」のように金箔が施された「黄金時代」と呼ばれる時期の作品が代表作になります。
この作品は,黄金時代の後のクリムト後期の作品で,9歳の女性と花の装飾による構成になっています。
クリムトは印象派の後の前衛的な画家で,ルノワールの影響を受けたと言っています。
また,日本画とその技法をかなり学んでいることは黄金時代の作品を見るとわかります。
ちなみに,私にとって「接吻」は生涯に一度でいいから直に見てみたい作品なのですが,ベルヴェデーレ宮殿(オーストリア美術館)にあるため,半ばあきらめています。
アンリ・ルソー:Henri Rousseau 「The Repast of the Lion」
アンリ・ルソー:Henri Rousseau
「ライオンの食事:The Repast of the Lion」
1907
Oil on canvas
素朴派(正規の技法を習っていない日曜画家の意味)であるアンリ・ルソーの代表作は,ジャングルの作品に限って言えば,メトロ美術館にあるこの作品とオルセー美術館にある「蛇使いの女:La charmeuse de Serpents」だと私は思っています。
植物の実(バナナ?)の描き方がとても特徴的です。
エドガー・ドガ:Edgar Degas「The Rehearsal of the Ballet Onstage」
エドガー・ドガ:Edgar Degas
「舞台のバレエ稽古:The Rehearsal of the Ballet Onstage」
1874
Oil colors freely mixed with turpentine, with traces of watercolor and pastel over pen-and-ink drawing on cream-colored wove paper, laid down on bristol board and mounted on canvas
印象派の画家エドガー・ドガと言えば,バレエを主題に扱った作品になります。
他にも,個人的にはロンシャン競馬場の様子を描いた作品を挙げたいと思います。
メトロポリタン美術館にはドガのバレエを扱った作品が何点かあるのですが,この作品は彼の代表作といえるでしょう。
また,ドガは彫刻にも取り組んでおり,メトロ美術館には彫刻での彼の代表作もあります。
エドガー・ドガ:Edgar Degas「The Little Fourteen-Year-Old Dancer」
エドガー・ドガ:Edgar Degas
「14歳の小さな踊り子:The Little Fourteen-Year-Old Dancer」
1922
Partially tinted bronze, cotton tarlatan, silk satin, and wood
1917年にドガは亡くなりますが,彼の死後,スタジオからは150を超える塑像作品が見つかります。
しかし,ワックスや粘土で作られたそれらは保存状態が悪かったため,ドガの相続人がこれらを鋳造することを承認します。
その鋳造された中のひとつがこれです。
ドガは生前に塑像作品を1度だけ1881年に発表していて,それがオリジナルとなっています。
そのオリジナルは,ワシントンDCのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。
ポール・セザンヌ:Paul Cézanne「Mont Sainte-Victoire」
ポール・セザンヌ:Paul Cézanne
「サント=ヴィクトワール山:Mont Sainte-Victoire」
1902–6
Oil on canvas
セザンヌの代表作と言えば,林檎がある静物画ですが,このサント・ヴィクトワール山の風景画も代表作です。
メトロポリタン美術館はセザンヌの作品を数多く所蔵していて,有名な作品としては「カード遊びをする人々:The Card Players」「赤いドレスのセザンヌ夫人:Madame Cézanne in a Red Dress」があります。
アメデオ・モジリアーニ:Amedeo Clemente Modigliani「Girl in a Sailor’s Blouse」
アメデオ・モジリアーニ:Amedeo Clemente Modigliani
「セーラーズブラウスを着た少女:Girl in a Sailor’s Blouse」
1918
Oil on canvas
これまで,何度も紹介しようと思ってましたが,著作権の関係で作品を掲載できていませんでした。
やっと紹介できます。
モジリアーニです。
モジリアーニの油絵は,肖像画と裸婦画がほとんどです。
他には風景画は4点だけあり,静物画は1作もありません。
モジリアーニの自画像は顔と首が長いのが特徴ですが,それだけでなく,人物から受け取った印象を表すのがとても上手な画家だと私は思います。
また,裸婦画においては強調したいところを上手くデフォルメして,女性らしさを表現しています。
実は今回も,メトロポリタン美術館にあるモジリアーニの代表作ともいえる裸婦画「横たわる裸婦」を紹介するつもりでしたが,やはり著作権の関係で作品を掲載できず,この少女の作品にしました。
モジリアーニの作品は,パブリック・ドメインのものと著作権があるものがあり,チェックが必要です。
私はこれまで,モジリアーニの作品を生でかなり見ています。
日本にある美術館もかなり所有しているのではないかと思います。
ジョルジュ・スーラ:Georges Seurat「Circus Sideshow」
ジョルジュ・スーラ:Georges Seurat
「サーカスの客寄せ:Circus Sideshow (Parade de cirque)」
1887–88
Oil on canvas
さて,シカゴ美術館でスーラの代表作「グランド・ジャット島の日曜日の午後:A Sunday on La Grande Jatte」を紹介しました。
アメリカの美術館32選!【シカゴ美術館】 mohamoha58
この「サーカスの客寄せ: Circus Sideshow 」も彼の代表作です。
実は,メトロポリタン美術館にも,シカゴ美術館にある「グランド・ジャット島の日曜日の午後:A Sunday on La Grande Jatte」があります。
シカゴ美術館にある方が本物というか,メトロポリタン美術館にある作品は習作で,ちょっとキャンバスが小さいです。
印象派ぐらいの時代では,他にも「アンリ・マティス:Henri Matisse」も紹介したかったのですが,マティスの作品は全て著作権の関係で掲載できなかったため,残念ながらあきらめました。
ジャン=フランソワ・ミレー:Jean-François Millet「Haystacks: Autumn」
ジャン=フランソワ・ミレー:Jean-François Millet
「秋・積みわら:Haystacks: Autumn」
ca. 1874
Oil on canvas
「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」の作品で有名なミレーです。
これらの作品は,風景画というよりも働く農民の姿を描いたものとして,宗教的にも政治的にも深さを感じることができます。
画像の「秋・積みわら」は,農民画というよりも風景画ととらえてよいと思います。
ミレーの晩年の作品です。
ドミニク・アングル:Dominique Ingres「La Princesse de Brogli」
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル:Jean Auguste Dominique Ingres
「ド・ブロイ公爵夫人の肖像:Princesse de Broglie」
1851–53
Oil on canvas
時代は印象派をちょっと遡り,新古典主義になります。
新古典主義の巨匠,アングルです。
アングルの肖像画の代表作は,メトロポリタン美術館にあるこれと言っても過言ではないと思います。
この水色のドレスの描き方をぜひ直接見たいものです。
次に紹介するのは,同じ1850年代にアメリカで描かれた作品で,このブログの「州のニックネーム」のページで紹介したものです。
エマヌエル・ロイツェ:Emanuel Gottlieb Leutze「Washington Crossing the Delaware」
エマヌエル・ロイツェ:Emanuel Gottlieb Leutze
「デラウェア川を渡るワシントン:Washington Crossing the Delaware」
1851
Oil on canvas
まず,この絵の意味については,私の「州のニックネーム」についてのページをご覧ください。
【大西洋中部地区】州の25セント硬貨のデザイン紹介 mohamoha49
エマヌエル・ロイツェは,ドイツ生まれのアメリカの画家で,アメリカの歴史を題材にした絵を多く制作しました。
実際の作品は,約4m×約6.5mの大作で,間近で鑑賞すると,さぞ,迫力があるだろうと推測します。
この作品はメトロポリタン美術館の永久収蔵品となっているそうです。
また,多くの模写があり,そのうちの一つはホワイトハウスの受付に飾られているそうです。
次は,同じ時代と言えば同じなんですが,新古典主義の前,ロマン主義の画家の紹介です。
ウィリアム・ターナー:Joseph Mallord William Turner「Venice, from the Porch of Madonna della Salute」
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー:Joseph Mallord William Turner
「大運河・ヴェネツィア:Venice, from the Porch of Madonna della Salute」
ca. 1835
Oil on canvas
イギリスのロマン主義の画家,ターナーです。
ターナーと言えば,光とか霞に満ちた風景画という印象を持っています。
イギリス人のターナーですが,ヨーロッパ各地を巡り風景画を描いています。
ターナーは手元にあった主要作品をすべて国家に遺贈したそうで,作品の多くはイギリスにあり,メトロポリタン美術館がイタリア・ベニスの風景画を所蔵していることは流石だと言えます。
次に,時代をずっと遡り1600年代の古典主義画家の作品を2つ紹介します。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour「The Fortune-Teller」
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour
「女占い師:The Fortune-Teller」
probably 1630s
Oil on canvas
フランスの古典主義の画家,ラトゥールです。
占い師である老婆に気を取られている男性が,周りの女性たちにスリをされているところです。
男性の横にいる女性の横眼が何とも特徴があります。
ラトゥールは,このような横眼の女性の作品を他にも制作しています。
「いかさま師」という作品なのですが,横眼の女性としてはこちらの方が名が知られていると思います。
実はこの「いかさま師」二つのバージョンがあり,一つは「ダイヤの札版」と呼ばれ,フランスのルーブル美術館にあり,もう一つは「クラブの札版」と呼ばれ,アメリカ合衆国テキサス州フォートワースのキンベル美術館にあります。
キンベル美術館にある「いかさま師(クラブの札版)」の画像はこちら(ラトゥールのウィキペディア)
ラトゥールの作品は,上記の「女占い師」「いかさま師」のような風俗を描いたものと聖書の題材を扱ったものがあります。
メトロポリタン美術館には,聖書を扱った作品の代表作があります。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour 「The Penitent Magdalen」
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:Georges de La Tour
「悔い改めるマグダラのマリア:The Penitent Magdalen」
ca. 1640
Oil on canvas
ラトゥールの聖書からの題材の作品です。
特徴は,画面の多くが闇であり,ろうそくの光との明暗による独特の雰囲気を醸し出していることです。
同時期の画家,カラヴァッジオの明暗法で描いた作品とよく似ています。
ラトゥールはこのような作品をいくつか描いています。
ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer「Young Woman with a Water Pitcher」
ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer
「水差しを持つ女:Young Woman with a Water Pitcher」
ca. 1662
Oil on canvas
あのフェルメールです。
メトロポリタン美術館にはフェルメールの作品が5点もあります。
中でもこの「水差しを持つ女」が一番知られているのではないでしょうか。
フェルメールはバロック期の画家で,カラヴァッジオやレンブラントと同時期になりますが,当時やその後も有名ではありませんでした。
脚光を浴びるのは,19世紀になってからのフランスにおいてです。
20世紀に入ると,フェルメールの贋作が多数存在することが判明します。
中でも,メーヘレンの贋作が有名ですね。
この贋作事件により,フェルメールの知名度がより一層増したと思います。
エル・グレコ:El Greco「View of Toledo」
エル・グレコ:El Greco
「トレド風景:View of Toledo」
ca. 1599–1600
Oil on canvas
エル・グレコの風景画があるとは,さすが,メトロポリタン美術館です。
この時代に風景画を描くことがとても珍しく,エル・グレコとしてもこれ1枚と言えるのではないでしょうか。
風景画を描いても,劇画タッチは変わらず,エル・グレコらしさが出ています。
トレドはスペインにありますが,西ゴート王国の首都で,エル・グレコはこの地で活動しました。
メトロポリタン美術館による解説を読むと,これは実際に見える景色ではなく,トレドを象徴的に描いたものなのだそうです。
メトロポリタン美術館は,数多くのエル・グレコの作品を所有していますが,特筆すべき他の作品は本人の自画像になるのではないでしょうか。
ヤン・ファン・エイク:Jan van Eyck「The Crucifixion The Last Judgment」
ヤン・ファン・エイク:Jan van Eyck
「十字架・最後の審判:The Crucifixion; The Last Judgment」
1440-41
Oil on canvas, transferred from wood
時代は15世紀になり,ルネサンス期,中でも北方ルネサンスの代表,ヤン・ファン・エイクです。
メトロポリタン美術館所蔵のこの作品は,緻密さこそ「らしさ」がでてますが,他の有名な作品と比べると私はいまいちな気がしています。
ワシントンのナショナルギャラリー所蔵の「受胎告知」やロンドンのナショナルギャラリー所蔵の「アルノルフィーに夫妻像」は,一生に一度は直で見てみたいと思わせる作品です。
さて,ここまで西洋絵画を時代を遡りながら,かなりの数を紹介してきました。
他にも,メトロポリタン美術館にはもっと古い時代の絵画も所蔵しています。
西洋絵画の紹介は終わりにして,ここから何点かメトロポリタン美術館所蔵の日本美術を紹介します。
尾形光琳「Irises at Yatsuhashi (Eight Bridges)」
尾形光琳
「八橋図屏風:Irises at Yatsuhashi (Eight Bridges)」
1709
Pair of six-panel folding screens; ink and color on gold leaf on paper
国宝が2作もある尾形光琳です。
国宝の一つ目は「紅白梅図屏風(こうはくばいずびょうぶ)」で,静岡県のMOA美術館が所蔵しています。
国宝の二つ目は「燕子花図屏風(かきつばたず)」で,東京都港区の根津美術館が所蔵しています。
メトロポリタン美術館所蔵の「八橋図屏風」と「 燕子花図屏風 」は題材同じで,「伊勢物語」の八橋が基になっています。
メトロポリタン美術館に行けば,日本の国宝級がすぐにみられるということはすごいことです。
ちなみに燕子花図屏風の方は,根津美術館が毎年春に年に1ヶ月だけこの屏風を見られる「燕子花図屏風展」を開催しています。
伊藤若冲「White Plum Blossoms and Moon」
伊藤若冲
「月下白梅図:White Plum Blossoms and Moon」
1755
Hanging scroll; ink and color on silk
伊藤若冲です。
伊藤若冲の代表作は「動植綵絵(どうしょく さいえ)」の群鶏の絵になると思います。
私は国宝だと思っていたのですが,宮内庁が管理しているため,国宝や重要文化財に指定されていないそうです。
皇室以外の所持だったら,間違いなく国宝に指定されているでしょう。
私が好きな絵の中の一つに伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」があります。
静岡県立美術館に収蔵されています。
さて,メトロポリタン美術館が所蔵している「 月下白梅図 」ですが,これは若冲が画業に専念した最初の年に描かれたものだそうです。
葛飾北斎「South Wind, Clear Sky (Gaifū kaisei)」
葛飾北斎
「冨嶽三十六景 凱風快晴:South Wind, Clear Sky (Gaifū kaisei), also known as Red Fuji, from the series Thirty-six Views of Mount Fuji (Fugaku sanjūrokkei)
1830–32
Woodblock print; ink and color on paper
北斎の富嶽三十六景,通称「赤富士」です。
メトロポリタン美術館は,富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」も所蔵しています。
こちらはシカゴ美術館で紹介したので,赤富士を選びました。
東洲斎写楽「Kabuki Actor Ōtani Oniji III as Yakko Edobei in the Play The Colored Reins of a Loving Wife」
東洲斎写楽
三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛:Kabuki Actor Ōtani Oniji III as Yakko Edobei in the Play The Colored Reins of a Loving Wife (Koi nyōbō somewake tazuna)
6th month, 1794
Woodblock print; ink, color, white mica on paper
活動期間はわずか10カ月,残された作品は150枚余り,江戸時代の謎の絵師,写楽です。
写楽の代表作は,舞台役者のブロマイドだった「役者絵」,「大首絵(おおくびえ)」と呼ばれるものです。
その中でも,この「三代目大谷鬼次」が一番有名なのではないでしょうか。
顔の大きさと手の大きさを比べてみてください。
かなり顔を誇張しているのにもかかわらず,違和感がありません。
写楽の浮世絵なので,所蔵している美術館は多くはなく,メトロポリタン美術館のほか,ボストン美術館,シカゴ美術館,東京国立博物館,大英博物館,立命館大学だけだそうです。
以上で,メトロポリタン美術館所蔵の作品紹介を終わります。
メット・クロイスターズ(メトロポリタン美術館・別館):The Met Cloisters
メット・クロイスターズは,メトロポリタン美術館の別館になります。
「クロイスター:cloister」の意味は「回廊」です。
建物は,中世に建てられたフランスやスペインの大修道院のパーツを集めて1930年代に建てられ,中世ヨーロッパの美術を展示する美術館になりました。
当時の庭園もそのまま再現しているそうです。
メット・クロイスターズは,建物や庭園自体も見どころになっています。
彫刻,ステンドグラス,タペストリーなど,9世紀から15世紀の約5000点以上の中世ヨーロッパの芸術作品が展示されています。
これらは,この美術館が立つ土地の所有者であるロックフェラーJrが所有しているそうです。
ボパード・ルーム:Boppard Room
ボパード・ルームには祭壇があり,彫刻作品などが展示されています。
中でも,聖母マリアと5人の聖人のステンドグラスは必見です。
ユニコーン・タペストリーズ・ルーム:Unicorn Tapestries Room
この部屋には,ユニコーンを捕らえるまでのストーリーが描かれている7枚のタペストリーがあります。
それぞれ,約4mの大きさです。
タペストリーは王族や貴族の館の壁を覆う手織物で,一枚の完成には数年かかると言われています。
フエンティドゥエナ礼拝堂:The Fuentiduena Chapel
この部屋は礼拝堂です。
スペインのフエンティドゥエナにある12世紀に建てられたサンマルティン教会を解体して,1958年から1961年にクロイスターズに移築しています。
フレスコ画もそのまま移しています。
この大偉業はドキュメンタリー映画にもなっていて「The Fuentidueña Apse: A Journey from Castile to New York」にすべて記録されています。
他も合わせると全部で20の部屋があり,それぞれ中世ヨーロッパの宗教芸術を堪能することができます。
最後にクロイスターズ美術館の中で,私が直に一番見てみたいものを紹介して終わります。
クロイスターの十字架:The Cloisters Cross
作者不明
「クロイスターズ・クロス:The Cloisters Cross」
ca. 1150–60
Walrus ivory
イギリスで発見されたセイウチの象牙で作られた十字架です。
92の数字と98のラテン語の碑文が刻まれています。
メトロポリタン美術館の解説を読むとかなりいわくつきの十字架で,ここでは書きませんが,ラテン語の碑文にはかなりひどいことが書かれているようです。
中世ならではと言ったところでしょうか。
メット・クロイスターズ公式HP (メトロポリタン美術館HP内)
別館を「メット・クロイスターズ:The Met Cloisters」と呼ぶのに対して,本館のメトロポリタン美術館の方は「メット・フィフス・アベニュー:The Met Fifth Avenue」と呼ぶようです。
私は,メトロポリタン美術館のHPで初めて知りました。
さて,2つの美術館を紹介し終えたところでメトロポリタン美術館を終わりにしたいのですが,さらに紹介したいことがあります。
それは,メトロポリタン美術館には別館がもう一つあったということです。
【閉館】メット・ブロイヤー (旧メトロポリタン美術館・別館) :The Met Breuer
メトロポリタン美術館にはメット・クロイスターズの他にもメット・ブロイヤーという別館がありました。
2020年に新型コロナウイルス感染症がニューヨークにも拡大し,メット・ブロイヤーも3月に臨時休業をせざるを得ない状況になりました。
そして,そのまま再開することなく,6月にメトロポリタン美術館はメット・ブロイヤーを閉館することを発表しました。
理由は財政難ということだそうです。
私は,ここでメット・ブロイヤーを紹介するつもりで,作品もアンディー・ウォホールとロイ・リキテンスタインのものと決めていました。
閉館になったことをネットで知ったので,ウォホールとリキテンスタインは別の美術館で紹介することになります。
メット・ブロイヤーは,コンテンポラリー・アート(現代美術)とモダン・アート(近代美術)を主に扱う美術館でした。
画像の建物が,メット・ブロイヤーだったところです。
この建物は,1966年にマルセル・ブロイヤーによって設計されたため,「メット・ブロイヤー」という名称でした。
この後はフリック・コレクションに又貸しするようで,この建物は3つ目の美術館に変わることになります。
1966年~2015年:ホイットニー美術館(移転)
2016年~2021年:メット・ブロイヤー(閉館)
2021年~ ? :フリック・コレクション(本館の拡張工事により仮展示スペースとして使用)
さて,これで今回は終了です。
次回は,ニューヨーク近代美術館を紹介するつもりです。
今回のページで参考にしたHPは以下の通りです。(各美術館の公式HPは各項の最後に紹介しています。)
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