アメリカにある美術館の紹介,第11弾です。
今回も前回に引き続き,ワシントンD.C.にある美術館の紹介です。
中でも「スミソニアン・アメリカ美術館」「ハーシュホーン博物館と彫刻の庭」を紹介します。
- スミソニアン・アメリカ美術館:Smithsonian American Art Museum(ワシントンD.C.)
- ミッカレン・トーマス:Mickalene Thomas「Portrait of Mnonja」
- トーマス・ハート・ベントン:Thomas Hart Benton「Achelous and Hercules」
- ジャクソン・ポロック:Jackson Pollock「Going West」
- ハーシュホーン博物館と彫刻の庭:Hirshhorn Museum & Sculpture Garden(WashingtonD.C.)
- オーギュスト=ルネ・ロダン:Auguste-René Rodin「The Burghers of Calais」
- ヘンリー・ムーア:Henry Moore「King and Queen」
- アルベルト・ジャコメッティ:Alberto Giacometti「Monumental Head」
- アリスティド・マイヨール:Aristide Maillol「Nymph」
- 草間 彌生:Yayoi Kusama「Pumpkin」
スミソニアン・アメリカ美術館:Smithsonian American Art Museum(ワシントンD.C.)
スミソニアン・アメリカ美術館を紹介するには,最初に「スミソニアン博物館」について説明する必要があります。
スミソニアン博物館というところは存在せず,スミソニアン博物館とは,スミソニアン学術協会が運営している博物館群や教育研究機関の複合体です。
スミソニアン学術協会が運営する施設のほとんどは,国会議事堂とワシントン・モニュメントの間のナショナル・モールにあります。
以下,ナショナル・モールにある施設です。
国立アフリカ美術館:National Museum of African Art
国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館:National Museum of African American History and Culture
国立航空宇宙博物館:National Air and Space Museum
フリーア美術館:Freer Gallery of Art
アーサー・M・サックラー・ギャラリー:Arthur M. Sackler Gallery
芸術産業館:The Arts and Industries Building
国立アメリカ歴史博物館:The National Museum of American History
国立アメリカ・インディアン博物館:National Museum of the American Indian
国立自然史博物館:National Museum of Natural History
そして,この後に紹介する
ハーシュホーン博物館と彫刻の庭:The Hirshhorn Museum and Sculpture Garden
そして,今回紹介する「スミソニアン・アメリカン美術館:Smithsonian American Art Museum」は,ホワイトハウスの向かって右手にあります。(上のグーグルマップ参照)
また,ホワイトハウスの向かって左手横には,支館である「レンウィック・ギャラリー:Renwick Gallery of the Smithsonian American Art Museum」があります。
スミソニアン・アメリカン美術館の横には,同じくスミソニアン学術協会が運営している「国立肖像画美術館:National Portrait Gallery」があり,下の画像のように「コゴッド・コートヤード:The Robert and Arlene Kogod Courtyard」でつながっています。
スミソニアン博物館は,イギリスの科学者「ジェームズ・スミソン:James Smithson」の遺言により,寄付された莫大な遺産を元に設立されました。
ジェームズ・スミソンは生前,アメリカを訪問したことはなく,死後に遺骸のみアメリカ上陸を果たし,棺は現在もスミソニアン協会本部ビル1階に安置されており,いつでも拝観することができるそうです。
ただ,未だにイギリス人のスミソンがなぜ,アメリカに寄付したのかその理由は分かっていないそうです。
それでは所蔵する作品の紹介に入りますが,スミソニアン・アメリカ美術館はアメリカで活躍した画家の作品を主に展示しています。
スミソニアンのHPからダウンロードはできるのですが,パブリックドメインの作品は少なく,ここに載せられる作品は限られたものになります。
従って,私がスミソニアンのHPを見て,特に気になった作品の中で,ここに画像を載せることができる作品を3点に絞って紹介します。
スミソニアン・アメリカ美術館には,これまでこのブログで紹介しているオキーフやホッパーなどの代表作も所蔵していますが,私が気になった作品を優先します。
ミッカレン・トーマス:Mickalene Thomas「Portrait of Mnonja」
ミッカレン・トーマス:Mickalene Thomas
「ムノニャの肖像:Portrait of Mnonja」
2010
rhinestones, acrylic, and enamel on wood panel
アメリカの現代アーティストの一人,ミッカレン・トーマスという女性の画家の作品です。
実際の作品は,243.8×304.8cmとかなり大きい作品です。
よく見ると,輪郭などにラインストーンを使用しています。
HPの解説には,「ミッカレン・トーマスは,大胆な背景に,ラインストーンで飾られた挑発的ポーズをとったアフリカ系アメリカン女性の大きな絵で知られるようになりました。絵で使用されているラインストーンはハイチのブードゥー美術を連想します。」とあります。
トーマス・ハート・ベントン:Thomas Hart Benton「Achelous and Hercules」
トーマス・ハート・ベントン:Thomas Hart Benton
「アケローオスとヘラクレス:Achelous and Hercules」
1947
tempera and oil on canvas mounted on plywood
トーマス・ハート・ベントンは,多くの壁画の制作などで知られるアメリカの画家です。
「アメリカン・ゴシック」を描いたグラント・ウッドと同様なリージョナリズムの立場を主張した画家でもあります。
リージョナリズムとは,地域の特性を基礎とし,地域の自主性を保ちながら,その連帯を促進しようとする考え方を意味します。
グラント・ウッドはアイオワ州でしたが,トーマス・ハート・ベントンはミズーリ州で活動しました。
勉学中のパリではメキシコ出身の壁画画家のディエゴ・リベラと知り合い影響を受けたそうです。
後にニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークで絵を教え始め,教えた学生にはジャクソン・ポロックがいます。
絵の説明ですが,リージョナリズムの作家らしい主張を持った絵と言えます。
まず,題名のアケローオスとヘラクレスは神話に登場する神です。
ヘラクレスは半神半人の英雄,アケローオスは河の神です。
「アケローオスとヘラクレス」の絵の主題は,「ミズーリ川の氾濫を制御して,ミズーリ州の豊かな土地から豊かな自然の恵みを享受する」ということです。
雄牛が氾濫している川の神アケローオスで,その角を押さえ込んでいるのがヘラクレスです。
その周囲には,ミズーリ州で収穫されるいろいろな自然の恵みがあります。
この絵はカンザスシティーのデパートの壁画として描かれたそうで,1947年のことです。
トーマス・ハート・ベントンは,ミズーリ川の水路を整備して氾濫が起こらず,毎年良い収穫になる未来を想像してこの絵を描いたそうです。
ジャクソン・ポロック:Jackson Pollock「Going West」
ジャクソン・ポロック:Jackson Pollock
「Going West」
ca.1934-1935
oil on fiberboard
抽象表現主義の代表的な画家でアクション・ペインティングのポロックです。
ポロックの作品ですが,ポロックらしくない作品なので,私の目に留まりました。
まだ,ポロックがアクション・ペインティングをする前の時期の作品だと推測されます。
ポロックは1930年からニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで,上記で紹介したトーマス・ハート・ベントンの指導を受けていますから,この作品はまだ勉学中の作品だろうと思います。
これでスミソニアン・アメリカ美術館の紹介を終わります。
ハーシュホーン博物館と彫刻の庭:Hirshhorn Museum & Sculpture Garden(WashingtonD.C.)
ジョーゼフ・ハーシュホーンによる寄付によってこの円形の建物が建設されました。
スミソニアン・アメリカ美術館の項で書いたように,スミソニアン博物館群の一つです。
ハーシュホーン博物館となっていますが,美術館であり,その横には彫刻作品が設置された「彫刻の庭:Sculpture Garden」と呼ばれる庭園があります。
彫刻ばかりではなく,近代,現代絵画も所蔵されています。
これまで私のブログでは彫刻作品をほとんど紹介していなかったので,ここでは彫刻作品を紹介します。
オーギュスト=ルネ・ロダン:Auguste-René Rodin「The Burghers of Calais」
オーギュスト・ロダン:Auguste Rodin
「The Burghers of Calais:カレーの市民」
1884-1889/cast 1953-1959
Bronze
まずは,近代彫刻の父と言われるオーギュスト・ロダンについて紹介します。
フランス出身のロダンは,フランス・ベルギー・イタリアと住まいを変えながらも彫刻を独学で学びます。(動物彫刻家に弟子入りを一度しています。)
ローマにてミケランジェロの作品に影響を受けて,青銅での制作を始めます。
それらの作品が認められ,生涯で数千点の作品を残すほどの大家になりました。
ロダンは一度,彫刻家をあきらめ,進学の道に進むため修道院にいた時があります。
しかし,むいていないから彫刻家に戻りなさいと言われ,再び彫刻家になったそうです。
代表作に,今回紹介する「カレーの市民」,「地獄の門(未完)」「考える人」などがあります。
ロダンと言えば,誰もがまず思い浮かぶのが「考える人」だと思います。
「考える人」は「地獄の門」の作品の中の上部の一部なのですが,ロダンの作品にはこのように集合体の作品の一部を単独で作品にしているものがあります。
「考える人」は何を考えているのかというなぞをよく耳にします。
また,「考える人」はロダン自身だという説と「神曲」を著したダンテだという説があります。
「考える人」は「地獄の門」の一部で,「地獄の門」はダンテの「神曲」に登場する地獄への入り口の門であることから推測すると,私は「考える人」はダンテだと思っています。
「考える人」という作品名は鋳造した人が付けたそうで,ロダン自身は「詩人」と名付けていたことからもそうじゃないかなと思っています。
彫塑作品は鋳造で何体も制作できるため,1枚しかない絵と違い,オリジナルと呼ばれるものは複数存在します。
何をもってオリジナルと呼ぶかは,元の形を制作した作者が生きている間に認めて鋳造したものをそう呼びます。
「地獄の門」はオリジナルとして7か所で設置されています。
アメリカにはなく,日本には2つ(国立西洋美術館,静岡県立美術館)あります。
「考える人」は30か所以上のところで設置されています。
日本には国立西洋美術館など7か所に,アメリカでは12か所にあります。
私のブログでは,クリーブランド美術館の「考える人」を画像で紹介しました。(mohamoha59アイキャッチ画像)
フィラデルフィアにはロダン美術館があり,そこにも設置されています。(ランキング32内に入っていないため,このブログでは紹介しません。)
前回のページで紹介しているワシントン・ナショナル・ギャラリーにも,ロダンの死後に鋳造したものが設置されています。
また,ニューヨーク,ワールド・トレード・センターにも設置されていましたが,ご存じの通り,無くなってしまいました。
さて,「ミレーの市民」の紹介です。
1880年、ロダンがカレー市長より町の広場へブロンズの設置を依頼されて制作しました。
内容は,フランスの港町カレーがイギリスとの戦争での出来事を表しています。
カレー市を包囲していたイギリス軍に,主要メンバーを6人差し出せば市民の命は助けると言われ,選ばれた6人が出頭する場面です。
オリジナルは12か所で設置されており,オリジナル以外の設置も何か所もあります。
ハーシュホーン博物館に設置されているものは,1943年に鋳造され,1966年に設置されました。
展示の仕方は2通りあり,画像のハーシュホーン博物館のように群像で展示しているところと,一体一体バラバラに設置されているところがあります。
ロダンは,当初,バラバラに設置されることを望んでいたそうです。
アメリカでバラバラに設置されている美術館は,ブルックリン美術館です。
以前このブログのブルックリン美術館の紹介ページで画像を紹介しています。(mohamoha63アイキャッチ画像)
完成前の試作の段階で,一体一体がバラバラに制作されていたものを鋳造したためこのような展示ができるのだと推測します。
ヘンリー・ムーア:Henry Moore「King and Queen」
ヘンリー・ムーア:Henry Moore
「王と王妃:King and Queen」
1952-1953/cast June 1953
Bronze
現代彫刻を取り上げる場合,必ず取り上げなければならないイギリスの彫刻家,ヘンリー・ムーアです。
ヘンリー・ムーアのおおらかで丸みのある彫刻は,世界各地の公園や駅前といった公共の場所に設置されています。
日本にもいろいろなところに展示されていますが,「箱根,彫刻の森美術館」が代表的なところになると思います。
ヘンリー・ムーアは,パブリック・アートとして公共の場に自分の作品を置くことを主としました。
パブリックアートとは,美術館やギャラリー以外の広場や道路や公園など公共的な空間に設置される芸術作品のことです。
彫刻を野外に展示することを好み,「彫刻の置かれる背景として空以上にふさわしいものはない」と語ったそうです。
ヘンリー・ムーアの代表作と言えば,私はすぐに彫刻の森美術館に展示されている「家族」になりますが,この「王と王妃」も代表作の一つです。
アルベルト・ジャコメッティ:Alberto Giacometti「Monumental Head」
アルベルト・ジャコメッティ:Alberto Giacometti
「Monumental Head」
1960
Bronze
細長い人物の彫刻で知られるスイスの彫刻家ジャコメッティです。
肉付けがほとんどない細長い彫刻は1950年頃から作られはじめ,それが「現代における人間の実存を表現したもの」として高く評価されます。
代表作「歩く男」はスイスの紙幣の裏面に描かれ,表面にはジャコメッティの肖像が描かれています。
さて,わたしが紹介する「Monumental Head」ですが,顔が誰が見てもジャコメッティだと分かる作品だと思い選びました。
アリスティド・マイヨール:Aristide Maillol「Nymph」
アリスティド・マイヨール:Aristide Maillol
「Nymph」
1930/cast by 1953
Bronze
近代彫刻家の代表者の一人,マイヨールです。
マイヨールによるブロンズ像は,丸みを帯びた女性の裸体がほとんどです。
このようなフォルムはマイヨールらしく,一目でマイヨールと分かる作品です。
近代彫刻の代表と言えば,先に紹介したロダン,ブールデル,そしてマイヨールになります。
それぞれ特徴があります。
ロダンは文学性,史実性の強い作品が特徴です。
ブールデルは,男性的なフォルムが特徴です。
日本の国立西洋美術館にある「弓をひくヘラクレス」でよく知られています。
そして,マイヨールは先に述べたように,丸みを帯びた女性の裸体が特徴です。
さて,この「ニンフ」の作品ですが,「ニンフ」とは森の精霊で,歌や踊りを好む若く美しい女性です。
ここまで,これまでの彫刻界の巨匠ばかりを選んで紹介してきました。
最後に,日本人作家を紹介します。
草間 彌生:Yayoi Kusama「Pumpkin」
草間 彌生:Yayoi Kusama
「黄かぼちゃ:Pumpkin」
2016
F.R.P. (Fiberglass Reinforced Plastic), urethane paint
前衛アーティストの草間彌生です。
作品で言えば,ドットパターンの繰り返しで名が知られている草間彌生です。
2016年に文化勲章を受章しています。
いろいろな活動をしているのですが,作品としては水玉模様や網目模様の繰り返していくもので,日本でもいろいろな美術館で鑑賞できます。
一番名が知られている場所は,香川県の「直島」ではないでしょうか。
「黄かぼちゃ」と「赤かぼちゃ」があります。
これで,ハーシュホーン博物館と彫刻の庭の紹介を終わります。
スミソニアン博物館群の中で,芸術関係の建物は他に「アーサー・M・サックラー・ギャラリー」「フリーア美術館」があります。
両方とも,古代のアジア・中東諸国の作品を展示しています。
フリーア美術館には,俵屋宗達の「松島図屏風」があります。
退職後 アメリカに行く話 | アメリカの美術館32選!【ボストン美術館,イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館,イェール大学アートギャラリー】 mohamoha65
ボストン美術館の紹介の中で俵屋宗達の「松島図屏風」について触れています。
今回はこれで終わります。
今回のページで参考にしたHPは以下の通りです。(各美術館の公式HPは各項の最後に紹介しています。)
Smithsonian American Art Museum Wikipedia
アメリカにある美術館を独自にランキングして32の美術館を紹介しているのですが,今回で東海岸にある21の美術館を紹介し終えました。
次回は西海岸にある美術館を紹介していきます。
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