アメリカにある美術館の紹介,第9弾です。
アメリカの美術館を紹介するにあたって,独自のランキングをしています。
詳細についてはこちらをご覧ください。
アメリカの美術館32選!【デトロイト美術館】 mohamoha55
今回は,ランキングされた美術館の中からニューイングランド地方にある美術館を3つ紹介します。
マサチューセッツ州ボストンにある「ボストン美術館」「イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館」,コネチカット州ニューヘイブンにある「イェール大学アートギャラリー」です。
- ボストン美術館:Museum of Fine Arts, Boston(マサチューセッツ州ボストン市)
- ポール・ゴーギャン:Paul Gauguin「Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?」
- ジャン=フランソワ・ミレー:Jean-François Millet「The Sower」
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Postman Joseph Roulin」
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Madame Augustine Roulin Rocking a Cradle」
- クロード・モネ:Claude Monet「La Japonaise (Camille Monet in Japanese Costume)」
- ディエゴ・ベラスケス:Diego Rodríguez de Silva y Velázquez「Don Baltasar Carlos with a Dwarf」
- ウィリアム・ターナー:William Turner「Slave Ship (Slavers Throwing Overboard the Dead and Dying, Typhoon Coming On)」
- 葛飾北斎:Katsushika Hokusai 「Hô’ô zu byôbu」
- 尾形光琳:Ogata Kôrin「Waves at Matsushima」
- イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館:Isabella Stewart Gardner Museum(マサチューセッツ州ボストン)
- ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer「The Concert」
- レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn「Christ in the storm on the sea of Galilee」
- ティツィアーノ・ヴェチェッリオ:Tiziano Vecellio「Titian」
- ジョヴァンニ・ベッリーニ:Giovanni Bellini「Christ Carrying The Cross」
- アンデシュ・ソーン:Anders Leonard Zorn「Isabella Stewart Gardner In Venice」
- イェール大学アートギャラリー:Yale University Art Gallery(コネチカット州ニュー・ヘイブン)
- 建築家ルイス・カーン:Louis Isadore Kahn
- グーテンベルク聖書:Gutenberg Bible
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「The Night Café」
- エドゥアール・マネ:Édouard Manet「Reclining Young Woman in Spanish Costume」
- マルクス・ライヒリッヒ:Marx Reichlich「The Jester」
ボストン美術館:Museum of Fine Arts, Boston(マサチューセッツ州ボストン市)
ボストン美術館は1870年に有志によって設立され,1876年のアメリカの独立100周年記念日に開館しました。
1909年に現在の建物が建設され,2010年には別館となるアメリカ館が,2011年には現代美術のための新しい展示室が設けられました。
2020年に設立150周年を迎えたボストン美術館は,現在も拡張を続けています。
開館当初およそ6,000点だったコレクションは,現在では50万点近くに及び,毎年約120万人もの来館者がいるそうです。
特に,日本美術のコレクションは世界一と呼べるほどの質と規模を持っています。
その理由として,フェノロサをはじめとした米国人や岡倉天心がいたからだと言えます。
中学校の社会科でこのように習った記憶があります。
日本における文明開化の時,西洋の文化が尊ばれ,日本の伝統美術が軽んじられました。
アメリカ人のフェノロサらは,日本の伝統美術が失われていくことを危惧し,日本美術の保護や発展のために,日本の美術品を収集しました。
東京開成所(現・東京大学)にいた岡倉天心は,英語が得意だったことから同校講師だったフェノロサの助手となり,フェノロサの美術品収集を手伝いました。
フェノロサを師事し,弟子となった岡倉天心はその後,東京美術学校(現・東京藝術大学)や日本美術院を創設するなど,日本の伝統美術の保護に力を注ぎました。
さて,フェノロサ,岡倉天心らが収集した美術品は,ボストン美術館に寄贈されました。
その後も岡倉天心らによって収集,寄贈され,ボストン美術館はその後,100年以上にわたり日本の美術品を集めてきました。
ゆえに,現在,ボストン美術館の日本美術コレクションは世界一と呼べるほどの規模になったのです。
そのコレクションの中には,日本の国宝級とも言える作品を多く含んでいます。
また,ボストン美術館の浮世絵コレクションは,総数6万点を超え,その多くは近年までほとんど公開されなかったため,保存状態がきわめて良好なことで有名なのだそうです。
フェノロサはボストン美術館の初代日本美術部長(現在は東洋部長)を務め,その後,岡倉天心も同じ役職を務めました。
ボストン美術館には,岡倉天心の名をとった「天心園」という日本庭園があります。
この庭園にある灯籠と石塔は,岡倉天心が当時日本から持ち込んだそうです。
枯山水の庭園は,須弥山(しゅみせん:仏教やヒンズー教において中心にあると考えられる想像上の山)を表す石組と滝,亀島と鶴島を設けた白砂の海,島々をつなぐ三つの橋など,静けさや美しさを表現しています。
それでは,所蔵作品を紹介していきます。
ポール・ゴーギャン:Paul Gauguin「Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?」
ポール・ゴーギャン:Paul Gauguin
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか:Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?」
1897–98
Oil on canvas
ボストン美術館で一つ挙げるとすれば,私はゴーギャンのこの作品を取り上げます。
ゴーギャンの代表作でもあります。
横幅がかなり大きく,394㎝ある大作です。
題名からも主題がなんとなく理解できるのですが,向かって右側に赤ちゃんである幼少期,中央に両手を挙げている青年期,左側におばあちゃんである老齢期が描かれ,「人は生まれ落ち,老いて死ぬ運命から逃れることはできない」ことを表現しています。
ゴーギャンは,この作品を2度目のタヒチ滞在の時に描いています。
病気と借金を背負っていた時期でもあり,この作品を書き終えた後に自殺を図ったとも言われています。
ジャン=フランソワ・ミレー:Jean-François Millet「The Sower」
ジャン・フランソワ・ミレー:Jean-François Millet
「種まく人:The Sower」
1850
Oil on canvas
バルビゾン派で農民画で知られるミレーです。
ミレーと言えば,フランス・オルセー美術館にある「落穂拾い」「晩鐘」が有名です。
農民画はどちらかと言えば,穏やかな牧歌的に描かれるのに対して,この「種まく人」は力強さに溢れる作品です。
この「種まく人」はゴッホが模作をしたことで名が知られています。
ミレーが描いた「種まく人」は2点あり,もう1点はなんと,日本の山梨県立美術館に所蔵されています。
ミレーは「種をまく人」を2点描き,後に描いた方をサロンに出品したと伝記には書かれています。
ボストン美術館のものか山梨県立美術館のものか,どちらがサロン出品作なのかは未だに分かっていないそうです。
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Postman Joseph Roulin」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「郵便配達人ジョゼフ・ルーラン:Postman Joseph Roulin」
1888
Oil on canvas
ゴッホは,ルーランの絵を計6枚描いています。
これ以外の作品は全て胸から上を描いています。
詳細は,バーンズ・コレクションのページをご覧ください。
退職後 アメリカに行く話 | アメリカの美術館32選!【フィラデルフィア美術館,バーンズ コレクション】 mohamoha64
ボストン美術館には,郵便配達人ルーランの奥様の絵も所蔵しています。
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Madame Augustine Roulin Rocking a Cradle」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「子守をするルーラン夫人:Madame Augustine Roulin Rocking a Cradle (La Berceuse)」
1889
Oil on canvas
郵便配達人ルーランの肖像画は6点ですが,ルーラン夫人の肖像画は5点あります。
その5点は,メトロポリタン美術館,クレラー・ミュラー美術館,ゴッホ美術館,シカゴ美術館,そしてボストン美術館にそれぞれ収蔵されています。
ルーラン夫妻の肖像画2つとも揃っているところはこのボストン美術館だけになります。
クロード・モネ:Claude Monet「La Japonaise (Camille Monet in Japanese Costume)」
クロード・モネ:Claude Monet
「ラ・ジャポネーズ (着物をまとうカミーユ・モネ):La Japonaise (Camille Monet in Japanese Costume)」
1876
Oil on canvas
この絵の縦の長さは231.8cmあり,実はかなり大きな作品です。
日米和親条約後,日本の時期や衣服などがヨーロッパに渡ります。
そして,ヨーロッパでは「ジャポニズム」と呼ばれる日本の芸術や文化に対するブームが起こります。
特に,日本の日常生活を描いた独特の明るい色彩の浮世絵に画家たちは興味を持ちます。
モネもジャポニズムに影響を受けた作家の1人でした。
ゴッホもまた同様でした。
描かれている女性はモネの妻で,真っ赤な日本の着物を着て,手にはフランスの三色旗と同じ青・白・赤の扇を持っています。
そして,西洋の金髪のカツラを被っています。
モネはこの作品を第2回印象派展に出品しました。
印象派展では,2メートルを超える巨大な絵画は大きな注目を集め,称賛と中傷がほぼ半々だったそうです。
ディエゴ・ベラスケス:Diego Rodríguez de Silva y Velázquez「Don Baltasar Carlos with a Dwarf」
ディエゴ・ベラスケス:Diego Rodríguez de Silva y Velázquez
「カルロス皇子と侏儒:Don Baltasar Carlos with a Dwarf」
1632
Oil on canvas
私のブログで初めて紹介する画家になります。
スペインの宮廷画家であるベラスケスです。
肖像画家で言えば,まず最初に名前が出てくる程の巨匠で,バロック美術期の画家です。
ベラスケスの代表作は,スペイン・プラド美術館所蔵の「ラス・メニーナス」になるのですが,そこにはスペインのマルガリータ王女の幼少期が描かれています。(ちなみに「ラス・メニーナス」はスペイン史上最高の絵と言われています。)
さて,この絵のカルロス王子は,マルガリータ王女の母親が違うお兄さんにあたります。
「侏儒」は,「しゅじゅ」と読み,背丈のきわめて低い人のことを指します。
当時は,皇子の身の回りの世話をする係になっていたのでしょう。
カルロス皇太子は、天然痘でわずか16才で早逝しました。
ベラスケスの作品は,多くの印象派やピカソなどの画家に影響を与えます。
特にピカソは,「ラス・メニーナス」を基に58枚もの絵を描いているほどです。
影響を与えた点はいろいろあると思うのですが,一つ,例を挙げます。
絵を近くで見ると大胆なタッチで描いているのですが,絵を遠くから見ると美しく見えるという描き方をベラスケスはしています。
特に,衣服の模様や髪の毛の描き方にその特徴があります。
ベラスケスを鑑賞するときは,是非,近くで見る,遠くで見るを交互に繰り返しながら鑑賞するとその凄さが理解できると思います。
もちろん,これはベラスケスに限らないことですが,それを意図して描いた最初の頃の画家がベラスケスと言えると思います。
ウィリアム・ターナー:William Turner「Slave Ship (Slavers Throwing Overboard the Dead and Dying, Typhoon Coming On)」
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー:Joseph Mallord William Turner
「奴隷船:Slave Ship (Slavers Throwing Overboard the Dead and Dying, Typhoon Coming On)」
1840
Oil on canvas
イギリス,ロマン主義の画家ターナーです。
「光と大気の画家」と呼ばれていますが,「光の画家」と呼ばれる画家は他にも印象派のモネやバロックのフェルメールなどかなりいますが,ターナーほど「光の画家」がしっくりとくる画家はいません。
さて,この絵ですが,光あふれる神々しい他の作品とはちょっと違い,光に満ち溢れてはいるのですが,激しさの方が際立っています。
それもそのはず,この絵は,奴隷船の船長が奴隷133名を手と足をつないだまま,海に投げ捨てた事件を描いています。
事件を聞いたターナーが非道な船長を非難して描いた作品なのです。
続いて,世界一と呼べる規模を誇るボストン美術館の日本美術の作品をいくつか紹介します。
葛飾北斎:Katsushika Hokusai 「Hô’ô zu byôbu」
葛飾北斎:Katsushika Hokusai
「鳳凰図屏風:Phoenix(Hô’ô zu byôbu)」
1835
Eight-panel folding screen; ink, color, cut gold-leaf, and sprinkled gold on paper
まず,ボストン美術館所蔵の日本美術の中で,私が気に入った絵を2点紹介します。
一つ目は,葛飾北斎の肉筆画です。
北斎が74歳の頃に描いたと伝わっているそうです。
屏風にしてはちょっと背丈が短いと感じるかもしれません。
「鳳凰図屏風」は枕屏風といって,枕元に置いて風除けに使うものなのだそうです。
この屏風を枕元に置いて寝ると,さぞ,気持ちの良い夢が見ることができるはずです。
尾形光琳:Ogata Kôrin「Waves at Matsushima」
尾形光琳:Ogata Kôrin
「松島図屏風:Waves at Matsushima(Matsushima zu byôbu)」
18th century
Six-panel folding screen; ink, color, and gold on paper
二つ目は,尾形光琳の「松島図屏風」です。
フェノロサがボストンに持ち込んだと言われています。
この作品は,俵屋宗達が描いたものを尾形光琳が模したものです。
俵屋宗達が描いた「松島図屏風(荒磯屏風)」も日本にはなく,ワシントンD.Cのフリーア美術館にあります。
二作ともに日本にあれば間違いなく国宝だそうで,「幻の国宝」と言われています。
尾形光琳の「松島図屏風」はこのボストン美術館の作品が有名ですが,他にも描いています。
一つは焼失し,一つは大英博物館に所蔵されています。
2つとも,岩だけを模したものです。
ボストン美術館の紹介したい日本美術作品は他にも山ほどあるのですが,私が好きなこの2つにしておきます。
日本にあれば,間違いなく即国宝に指定されると言われている作品を簡単に挙げておきます。
「吉備大臣入唐絵巻」(平安時代)
Minister Kibi’s Adventures in China (Kibi daijin nittô emaki), scroll 1
(ボストン美術館の作品紹介へのページリンク)
これが1932年にアメリカ・ボストン美術館に渡ったことを知った日本政府は,重要美術品を国外に出すことを禁じる法律を作ったと言われています。
平治物語絵巻 三条殿夜討巻(鎌倉時代)
Night Attack on the Sanjô Palace, from the Illustrated Scrolls of the Events of the Heiji Era (Heiji monogatari emaki)
(ボストン美術館の作品紹介へのページリンク)
「平治物語絵巻」は全部で15巻あったのではないかと言われています。
現存するのは,ボストン美術館の「三条殿夜討の巻」,静嘉堂文庫の「信西の巻」,東京国立博物館の「六波羅行幸の巻」 (国宝) の3巻と「六波羅合戦の巻」の一部だけです。
絵の構成で言えば,ボストン美術館の「三条殿夜討の巻」が飛びぬけて優れていると私は思います。
これで,ボストン美術館の紹介を終わります。
イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館:Isabella Stewart Gardner Museum(マサチューセッツ州ボストン)
イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は,イザベラ・スチュワート・ガードナーが1903年に開設したプライベート美術館です。
イザベラが美術品を熱心に収集し始めたのは,実業家の父が死去して巨額の遺産を相続してからだそうです。
また,夫であるジョン・L・ガードナーが亡くなった後に,生前の夫と語りあっていた自分たちの美術品コレクションのために美術館を建設するという夢をイザベラは実行に移しました。
ギャラリーは15世紀ヴェネツィアの大邸宅を模してデザインされています。
三階建ての美術館は中庭を囲むようにデザインされ,中庭には四季折々の草花が植えられています。
奇しくも,イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館が世界中で有名になったのは,1990年に起きた盗難事件からでしょう。
総額5億ドルとも言われていますが,その中にはフェルメールの作品もあります。
未だに盗難されたものは戻って来ておらず,「展示品の位置を変えないこと」というイザベラの遺言に従って,現在も空の額が当時のままに壁にかけられています。
最初に,盗まれてまだ戻って来ていないものを紹介します。
ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer「The Concert」
ヨハネス・フェルメール:Johannes Vermeer
「合奏:The Concert」
1664
Oil on canvas
現存する作品が三十数点と数が少ないフェルメールの1作が行方不明というのは,なんとも悲しいことです。
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn「Christ in the storm on the sea of Galilee」
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn
「ガラリアの海の嵐:Christ in the storm on the sea of Galilee」
1633
Oil on canvas
フェルメールと同じくバロック期の画家,レンブラントのこの作品も盗まれました。
レンブラントが描いた唯一の海を題材にした作品でした。
この2点以外にもあり,計13点盗まれています。
この盗難事件は映画にもなっています。
私は,観たことがないので面白いかどうかは保証できないです。
それでは,盗まれていないイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に展示されている作品を紹介します。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ:Tiziano Vecellio「Titian」
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ:Tiziano Vecellio
「エウロペの略奪:The Rape of Europa」
1559-1562
Oil on canvas
イタリア・ルネサンス期の巨匠,ティツィアーノです。
この作品は7点からなる神話の連作の最後に描かれた作品です。
イザベラ・スチュワート・ガードナー夫人は,この絵をコレクションの中で最も大切な1枚としていたそうです。
ジョヴァンニ・ベッリーニ:Giovanni Bellini「Christ Carrying The Cross」
ジョヴァンニ・ベッリーニ:Giovanni Bellini
「十字架を運ぶキリスト:Christ Carrying The Cross」
1505-1510
Oil and tempera on poplar panel
ティツィアーノと同じく,イタリア・ルネサンス期の画家のベッリーニです。
ベッリーニの方がティツィアーノよりも前の画家で,ベネチア派と呼ばれる流派の第1世代になります。
ルネサンス期には,ベネチア派とフィレンツェ派があり,場所による違いの他に,前者は色彩重視,後者はデッサン重視の違いがあると言われています。
さて,イザベラ・スチュワート・ガードナー夫人はこの絵がとても好きで,コレクションの中で最も重要と考えていた上記の「エウロペの略奪」を飾っている同じ部屋にこの「十字架を運ぶキリスト」も飾りました。
画像の奥の壁に見えているのが「エウロペの略奪」です。
アンデシュ・ソーン:Anders Leonard Zorn「Isabella Stewart Gardner In Venice」
アンデシュ・ソーン:Anders Leonard Zorn
「ベニスにてイザベラ・スチュワート・ガードナー:Isabella Stewart Gardner In Venice」
1894
Oil on canvas
イザベラ・スチュワート・ガードナーの肖像画は他にもあるのですが,素の姿を捉えたということでこの肖像画を紹介しました。
作者は印象派期のスウェーデン人,アンデシュ・ソーンという画家です。
私はこれまで知らない画家でした。
調べてみると,1889年に開催されたパリ万国博覧会の展示会では金賞を受賞しています。
ソーンの家は現在,美術館になっています。
ソーンの水彩画は,スウェーデンの美術史上,最も高値で取引されたという記録もあります。
イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は以上です。
イェール大学アートギャラリー:Yale University Art Gallery(コネチカット州ニュー・ヘイブン)
私のブログで紹介している美術館は,独自ランキングをして,ベスト32を紹介しているわけですが,その選び方は個人的見解でやっているわけではありません。
「アメリカの美術館ランキング」をしているサイトを調べ,順位に応じて数値化し,ランキングしているため,かなり客観的なランキングだと自画自賛しています。
その客観的なランキングに,まさか大学のギャラリーが入るとは思ってもみませんでした。
ベスト32の中では一番下の32位だったのですが,大学のギャラリーだということを鑑みれば,かなりの快挙だと思います。
「イェール大学アートギャラリー:Yale University Art Gallery」は知りませんでしたし,聞いたこともありませんでした。
イェール大学のことはもちろん知っていましたが,アメリカのハーバード大学と同等の名門で,大学の図書館に「グーテンベルクの聖書」を所有しているということぐらいです。
ネットで調べてみると,どうもアート・ギャラリーの建物が有名なのだということがわかりました。
建物が歴史的建造物に匹敵するほどのものらしいのです。
建築家ルイス・カーン:Louis Isadore Kahn
設計した建築家の名前はアメリカの「ルイス・カーン:Louis Isadore Kahn」。
ブルータニズム建築様式の第一人者だそうです。
ブルータニズムとは,今でこそそんなに目新しくないですが,生のコンクリートをむき出しにしたり,打ちっ放しにしたりして荒々しさを残した表現主義のことだそうです。
1953年に完成したこの建物が,ルイス・カーンのデビュー作で,建築家の間では良く知られている建物なんだそうです。
「テトラヘドラル」と呼ばれる三角形で組まれた天井や円筒状・三角形状の階段などが目を惹き,コンクリートと大理石,木をうまく組み合わせ,自然光を上手く取り入れることなどは,現在の建築物のお手本になっているそうです。
また,イェール大学アートギャラリーの目の前にある「イェール英国美術研究センター:Yale Center for British Art」も,ルイス・カーンの設計だそうです。
イェール大学アートギャラリーがデビュー作で,こちらは彼が晩年に設計した遺作になるそうです。
1974年に亡くなった後,1977年に完成したそうです。
ついでに,美術関連の話ではないですが,イェール大学図書館が所有している「グーテンベルク聖書:Gutenberg Bible」のことにも触れておきます。
グーテンベルク聖書:Gutenberg Bible
「グーテンベルク聖書」とは,初めて印刷された聖書のことです。
15世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を用いて印刷しました。
羊皮紙に印刷されたものと紙に印刷されたものがあり,180部が印刷されたと考えられています。
そのうち,現存するものとして,羊皮紙に印刷された完全なものが4部,不完全なものが8部,紙に印刷された完全なものが17部,不完全なものが19部あり,全部で世界に48部しかありません。
ドイツとアメリカ合衆国がそれぞれ12部あり,一番多いです。
ドイツにはグーテンベルク博物館があり,2部所有しています。
他には,イギリス8部,日本とフランスが3部,スペインとロシア,バチカンが2部,オーストリア,スイス,デンマーク,ベルギー,ポーランド,ポルトガルがそれぞれ1部所有しています。
日本では慶應義塾大学図書館が完全な紙の本を所蔵しています。
日本にある他の2部は不完全なもので,東北学院大学シュネーダー記念中央図書館と関西学院大学が所蔵しています。
画像の聖書は,アメリカ・カリフォルニア州サン・マリノにある「ハンティントン・ライブラリー:The Huntington Library」にある羊皮紙のグーテンベルク聖書です。
ハンティントン・ライブラリーは,もともと鉄道王といわれた実業家ヘンリー・E・ハンティントンの邸宅だった建物で, ハンティントンが亡くなった後,公共図書館として開放されているそうです。
図書館としての機能だけでなく,多くの美術品も展示されているようです。
グーテンベルク聖書は,ハンティントン氏が所有していたものと思われます。
ちなみに,現在,個人でグーテンベルク聖書を所有している唯一の人を皆さんはご存じでしょうか?
正解はページの終わりに書いておきます。
さて,イェール大学アートギャラリーに話を戻して,所蔵作品を紹介します。
大学のアートギャラリーだからといって侮るなかれ,かなりの所蔵品です。
その中から3つに絞って紹介します。
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「The Night Café」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「夜のカフェ:The Night Café」
1888
Oil on canvas
ゴッホの作品はよく目にしてきましたが,私はこの作品をおそらく今回初めて見るのではないかと思います。
床や電灯の明かりの描き方がとてもゴッホらしいです。
アルルにあったカフェで,ゴッホはこのカフェがある同じ建物に住んでいました。
他に,クレラー・ミュラー美術館に「夜のカフェテラス」という題の絵があるのですが,この2つのカフェは違う店らしいです。
エドゥアール・マネ:Édouard Manet「Reclining Young Woman in Spanish Costume」
エドゥアール・マネ:Édouard Manet
「スペイン風の衣装をつけて横たわる若い女:Reclining Young Woman in Spanish Costume」
1862–63
Oil on canvas
同じマネの「オランピア」と比べたくなる絵です。
構図的には女性の向きが反対ですが,よく似ています。
しかし,こちらの絵の方は人物に陰影がつけられ,より立体的です。
制作時期は,オランピアが1863年,これが1862-63年。
ほぼ同じ時期ですが,こちらの方が描き始めがやや早いです。
マネは日本の浮世絵の影響で,奥行きを表す空間表現や立体感をつけるための陰影をせずに「オランピア」を描きました。
女性の裸体には,その当時主流だった理想化することをせず,平坦にありのままに描いたため,「下品なメスゴリラ」と酷評されたそうです。
マルクス・ライヒリッヒ:Marx Reichlich「The Jester」
マルクス・ライヒリッヒ:Marx Reichlich
「宮廷道化師:The Jester」
ca. 1519–20
Tempera on panel
私がイェール大学アートギャラリーのHPにある所蔵作品の一覧を眺めていて,とても印象に残ってしまった作品です。
もちろん,初見です。
作者であるマルクス・ライヒリッヒを調べると,日本のウィキペディアにはありませんでしたが,英語の方にはありました。
マルクス・ライヒリッヒは,主に宗教絵画を描いたゴシック美術期のオーストリアの画家です。
この作家の他の作品も見たのですが,全て宗教絵画でした。
なぜ,この作品だけこのような作風なのか不思議です。
ルネサンスの前にゴシック美術の時代なのですが,絵を描く技術についてゴシックまではあまり発達せず,ルネサンスの初期のフィレンツェでグンと技術が上がったと言われています。
「宮廷道化師」とは何か,気になり調べました。
宮廷道化師(きゅうていどうけし、Jester)とは、中世ヨーロッパもしくはテューダー朝時代に王族や貴族によって雇われたエンターテイナー。現在でも歴史の再現を模したヨーロッパの催し物で見ることができる。中世の宮廷道化師は色鮮やかなまだら模様(英: motley)の服装と風変わりな帽子を被っており、先にあげた現代のものはこの服装を模倣している。中世の宮廷道化師たちは、物語を語ったり、歌や音楽、アクロバットやジャグリング、奇術など様々な芸を披露して楽しませてきた。また、おどけた調子で芸を披露し、当時の事柄や人物を笑いにした歌や話を創作した。
ウィキペディアより
この作者はウケを狙って描いたのではなく,宮廷道化師をありのままに描いたということが理解できました。
でも,なぜ,犬がいて,生卵をすすっているのかは謎です。
最後に,イェール大学アートギャラリーは無料で誰にでも解放されていることを書いておきます。
無料で,ゴッホやゴーギャン,ピカソやマティス,ドガやモンドリアンなどの巨匠の作品が見られるってすごいと思いませんか。
これで,イェール大学アートギャラリーの紹介を終わります。
今回のページで参考にしたHPは以下の通りです。(各美術館の公式HPは各項の最後に紹介しています。)
次回は,ワシントンD.C.にある3つの美術館を紹介します。
クイズの答え
現在,個人でグーテンベルク聖書を所有している唯一の人物は,「ビル・ゲイツ:Bill Gates」です。
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