アメリカにある美術館の紹介,第17弾です。
今回は,アメリカ中西部・西北中部にある美術館の紹介です。
ミズーリ州カンザスシティにある「ネルソン・アトキンス美術館」
同じくミズーリ州セントルイスにある「セントルイス美術館」
ミネソタ州ミネアポリスにある「ミネアポリス美術館」
以上の3つの美術館を紹介します。
3つとも独自のランキングで32位以内に入った美術館です。
- ネルソン・アトキンス美術館:The Nelson-Atkins Museum of Art(ミズーリ州カンザスシティ)
- クレス・オルデンバーグ:Claes Oldenburg「Shuttlecocks」
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Olive Trees」
- カミーユ・ピサロ:Camille Pissarro「Poplars, Sunset at Eragny」
- アンリ・マティス:Henri Matisse「Woman Seated before a Black Background」
- カラヴァッジオ:Caravaggio「Saint John the Baptist in the Wilderness」
- エゴン・シーレ:Egon Schiele「Standing Woman in a Patterned Blouse」
- ジョン・シンガー・サージェント:John Singer Sargent「Mrs Cecil Wade」
- セントルイス美術館:Saint Louis Art Museum(ミズーリ州セントルイス市)
- チャールズ・ウィマール:Charles Wimar「The Captive Charger」
- アンリ・マティス:Henri Matisse「Decorative Figure」「Bathers with a Turtle」
- マルク・シャガール:Marc Chagall「Temptation」
- ミネアポリス美術館:Minneapolis Institute of Arts(ミネソタ州ミネアポリス市)
- レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn「Lucretia」
- チャールズ・マリオン・ラッセル:Charles Marion Russell「Spearing a Buffalo」
- フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Olive Trees」
- 狩野山雪:Kano Sansetsu「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵):Taoist Immortals」
ネルソン・アトキンス美術館:The Nelson-Atkins Museum of Art(ミズーリ州カンザスシティ)
ネルソン・アトキンス美術館は,ミズーリ州カンザスシティーにある公立の美術館です。
「ネルソン・アトキンス」という名前は,美術館設立に貢献した2人の個人名を合わせたものです。
まずは「ウィリアム・ロックヒル・ネルソン」,もう一人は「メアリー・アトキンス」です。
以前は2つの美術館があり,一つの建物を「アトキンス・ミュージアム・オブ・ファイン・アート」,もう一つの建物を「ウィリアム・ロックヒル・ネルソン・ギャラリー・オブ・アート」と別々に呼ばれていたものを,1983年に「ネルソン・アトキンス美術館」と名前が改められました。
2006年に建物が新しくなりました。
美術館の外には広大な芝生が広がっていて,その一部が「ドナルド・J・ホール彫刻公園:Donald J. Hall Sculpture Park」になっています。
この広場の向かって右横にドナルド・J・ホール彫刻公園があります。
美術館内も,かなり雰囲気のある空間になっています。
所蔵作品の紹介をします。
まずは,これまでの画像の中に巨大なバドミントンのシャトルが写っているのが気になったと思いますが,その作者から紹介します。
クレス・オルデンバーグ:Claes Oldenburg「Shuttlecocks」
クレス・オルデンバーグ:Claes Oldenburg
「Shuttlecocks」
1994
Aluminum, fiberglass-reinforced plastic, paint
クレス・オルデンバーグは,スウェーデン出身のアメリカの彫刻家です。
日常のありふれた物を超巨大に複製したインスタレーションで知られています。
ネルソン・アトキンス美術館と言えば,バドミントンのシャトルと言われるほどよく知られていて,公式HPのアイコンもシャトルの形になっています。
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Olive Trees」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「Olive Trees」
June/September 1889
Oil on canvas
このブログでゴッホの作品を紹介するのは16作目です。
いかにアメリカの主要な美術館はゴッホの作品を所蔵しているのかが分かります。
風景画というよりも,このうねりに引き込まれてしまいそうな作品です。
カミーユ・ピサロ:Camille Pissarro「Poplars, Sunset at Eragny」
カミーユ・ピサロ:Camille Pissarro
「Poplars, Sunset at Eragny」
1894
Oil on canvas
私のブログで初めて紹介する印象派の画家です。
パリで活躍した画家ですが,出身はデンマーク領(当時)カリブ海のセント・トーマス島です。
気性の激しい印象派の画家たちの中で,ピサロはとても温和な人柄だったそうです。
アンリ・マティス:Henri Matisse「Woman Seated before a Black Background」
アンリ・マティス:Henri Matisse
「Woman Seated before a Black Background」
1942
Oil on canvas
「色彩の魔術師」と呼ばれるマティスです。
私のブログでマティスの作品を紹介するのはこれでちょうど5作目です。
画像の作品の色遣いは,流石としか言いようがないです。
叶うのならば,リヴィングに飾りたい1枚です。
カラヴァッジオ:Caravaggio「Saint John the Baptist in the Wilderness」
カラヴァッジオ:Caravaggio
「Saint John the Baptist in the Wilderness」
1604-05
Oil on canvas
カラヴァッジオは,初期バロック様式を創始したイタリア人画家です。
ルネサンスから次のバロックへの橋がかりをした画家と言えます。
カラヴァッジオは,ミラノで修業しローマで成功しますが,激しい性格が災いし人を殺めた罪でローマを追放されます。
その後もナポリなどで画家を続けています。
バロック絵画は,カラヴァッジオで始まり,ルーベンスやレンブラントに繋がります。
あのフェルメールもバロック期の画家です。
ルーベンスは,ローマでカラヴァッジョの宗教画の模写を行い,明暗技法の影響を受け,「光の魔術師」と称される独自の技法を編み出しました。
カラヴァッジオの代表作を挙げるとすると,次の2作になると思います。
静物画である「果物籠」(イタリア・ミラノ市・アンブロジアーナ絵画館所蔵)
宗教画である「キリストの埋葬」(バチカン市国・バチカン美術館所蔵)
エゴン・シーレ:Egon Schiele「Standing Woman in a Patterned Blouse」
エゴン・シーレ:Egon Schiele
「Standing Woman in a Patterned Blouse」
1912
Graphite and gouache on paper
以前から紹介したかった画家です。
オーストリアのウィーン分離派の画家,シーレです。
ウィーン分離派とは,オーストリア芸術連盟から脱退したメンバーで構成された,それまでの古典的な芸術を嫌い,より前衛的で実験的な表現を目指したグループになります。
中心人物はあのクリムトで,彼が初代理事長になっています。
シーレは,ウィーン美術アカデミーに入学するのですが,古典的なことばかり教えることに反発し,クリムトの弟子になります。
ウィーン美術アカデミーと言えば,ナチスドイツのヒトラーが2回も受験に失敗したエリート学校です。
シーレの描く人体や自画像はとても独特です。
人体の動きをかなりデフォルメしていると思います。
画像の作品は油彩ではなく紙に描いたアクリル画になりますが,シーレらしさに溢れた作品です。
ジョン・シンガー・サージェント:John Singer Sargent「Mrs Cecil Wade」
ジョン・シンガー・サージェント:John Singer Sargent
「Mrs Cecil Wade」
1886
Oil on canvas
この画家も,以前から紹介したかった画家です。
ジョン・シンガー・サージェントは,アメリカ出身でフランスで絵を学び,イギリス,フランスで活躍した肖像画家です。
活動した年代は,ちょうど印象派の時期と重なります。
代表作の中の1枚,「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」は,必見です。
イギリス・ロンドン市にあるテート・ブリテンが所蔵しています。
これで,ネルソン・アトキンス美術館の紹介を終わります。
セントルイス美術館:Saint Louis Art Museum(ミズーリ州セントルイス市)
セント・ルイス美術館は,ネルソン・アトキンス美術館のあるカンザスシティーと同じミズーリ州にありますが,カンザスシティーがカンザス州との州境にあるのに対し,セントルイス市はその反対のイリノイ州との州境にあります。
距離にして約400㎞離れています。
セントルイス美術館は,1881年にセントルイス・ワシントン大学の付属美術館としてスタートし,1909年に大学から独立して現在の形になりました。
画像の建物は,1904年に行われたセントルイス万博博覧会の時に建てられたものです。
この1904年には,セントルイスでアメリカ大陸初のオリンピックも開催されています。
その時のオリンピック会場が,現在,セントルイス美術館があるフォレスト・パークになります。
万博博覧会では,ハンバーガー,ホットドッグなどのアメリカの食べ物が世界で初めて紹介され評判になり,これらの食べ物の発祥の地はセントルイスになっているらしいです。
マクドナルドのマークはダブルのアーチになっていますが,ハンバーガー発祥地と言われるセントルイスにあるゲートウェイ・アーチを模しているという説もあります。
ゲートウェイ・アーチについてはこちらをご覧ください。
西部開拓を由来とする州ニックネームの話 mohamoha34
さて,セントルイス美術館の正面にある銅像を見て,誰か分かるでしょうか。
この方です。
なんと,フランス王のルイ9世なのです。
王冠を冠り,剣を逆さに持ち,十字架のようにして頭上に掲げています。
「セント・ルイス」の名前の由来は,ルイ9世からきています。
「ルイス」は「ルイ」9世と同じ綴りです。
セントルイスは元フランス領だったからです。
1803年に,トーマス・ジェファーソン大統領がナポレオンから購入した土地でした。
いわゆる「ルイジアナ購入」と言われるやつです。
ルイジアナ州の「ルイ」も「ルイ」9世からきているそうです。
台座には,「ここで開催された1904年の万国博覧会を記念して,ルイジアナ購入博覧会:the Louisiana Purchase Expositionによってセントルイス市に贈られた」と書かれています。
セントルイス美術館のあるフォレスト・パークもとてものどかな良いところのようです。
動物園もあるようですし,のんびりと散歩をするのも良いですね。
それでは,所蔵する作品を紹介します。
チャールズ・ウィマール:Charles Wimar「The Captive Charger」
チャールズ・ウィマール:Charles Wimar
「The Captive Charger」
1854
Oil on canvas
セントルイス美術館の所蔵品の中で代表作を1枚選ぶとすると,私はこの作品を選びます。
チャールズ・ウィマールは,ドイツ系のアメリカ人の画家です。
ウィマールは,10代の頃にドイツからアメリカに移住し,セントルイスに定住しました。
西部への玄関口と言われるセントルイスに住みだしたウィマールは,ネィティブ・アメリカンの人たちに関心を持ちます。
ウィマールの描く絵は,ネィティブ・アメリカンの肖像画,儀式,生活様式に焦点を当てています。
現在,ウィマールの残した作品は,ネィティブ・アメリカンのビジュアルの記録として認識されています。
画像の作品は,ネイティブ・アメリカンたちが野生の馬を捕らえ,鮮やかなオレンジ色の夕日の中での帰路の光景です。
アンリ・マティス:Henri Matisse「Decorative Figure」「Bathers with a Turtle」
手前の塑像
アンリ・マティス:Henri Matisse
「Decorative Figure」
August 1908, cast 1954
Bronze
奥中央の絵
アンリ・マティス:Henri Matisse
「亀と浴女:Bathers with a Turtle」
1907–8
Oil on canvas
マティスのブロンズ像と絵画です。
画像では奥の絵画がはっきりしていませんが,中央下に亀がいます。
沐浴中に女性たちが亀を見つけて遊んでいるという設定なのだと思います。
マルク・シャガール:Marc Chagall「Temptation」
マルク・シャガール:Marc Chagall
「Temptation」
1912
Oil on canvas
シャガールが活躍した時期は,ピカソなどのキュビズムと重なります。
しかし,画像の作品のように,シャガールがキュビズムの様式で描いているのは珍しいと言えます。
さて,シャガールがキュビズムで表したこの絵の主題がわかりますか?
聖書の物語です。
ヒント1:上の方を見ると生い茂った葉っぱが描かれているので,木があることがわかります。
ヒント2:中央を見ると,赤い実が描かれており,リンゴのようです。
ヒント3:向かって左側に男性が,右側に女性がいます。
もうお分かりですよね。
そう,「アダムとイブ」の物語を描いたのです。
これで,セントルイス美術館の紹介を終わります。
ミネアポリス美術館:Minneapolis Institute of Arts(ミネソタ州ミネアポリス市)
ミネアポリス美術館は,ミネソタ州のミネアポリス市にある公立の美術館です。
ミネアポリス美術館の始まりは1889年で,最初は公立図書館での展示からでした。
1915年に現在の建物が完成し,その後,何回か増築されています。
1974年の増築は,日本人の建設家によるものだったそうです。
所蔵作品を紹介します。
ミネアポリス美術館の代表作と言えば,この作品になると思います。
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn「Lucretia」
Rembrandt van Rijn, Lucretia Rembrandt Harmenszoon van Rijn (1606-1669), Lucretia, 1666, oil on canvas, 110 x 92 cm. Minneapolis Institute of Arts photo by Frans Vandewalle on Flickr(Noncommercial use allowed)
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn
「Lucretia」
1666
Oil on canvas
バロック絵画を代表するオランダの画家,レンブラントの作品です。
描かれている女性は,古代ローマの神話に登場する「ルクレティア」です。
王様の息子に乱暴され,自分の名誉を守るために自決した女性です。
この絵では,自分の腹部を刺した後の様子を描いています。
レンブラントはこのテーマで2枚描いていて,自決する直前の場面を描いた作品もあります。
ワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートが所蔵しています。
この作品です。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン:Rembrandt Harmenszoon van Rijn
「Lucretia」
1664
Oil on canvas
レンブラントは,こちらの作品の方を2年早く描いています。
レンブラントだけでなく,バロック期の画家はこのテーマをよく題材にしていたようです。
チャールズ・マリオン・ラッセル:Charles Marion Russell「Spearing a Buffalo」
チャールズ・マリオン・ラッセル:Charles Marion Russell
「Spearing a Buffalo」
1925
Oil on canvas
アメリカではかなり人気のある西部開拓時代の画家です。
ラッセルの描く絵は,西部開拓を象徴するような題材です。
ミズーリ州で育ち,次にイリノイ州,そして,モンタナ州が終の棲家となります。
モンタナ州のグレートフォールズには彼の博物館があり,彼の作品が約2000点展示されています。
また,モンタナ州の州議事堂の壁には,「フラットヘッド・インディアンと会うルイスとクラーク:Lewis and Clark Meeting the Flathead Indians」という壁画が描かれています。
ルイスとクラークについては,こちらをご覧ください。
【西北中部地区②】州の25セント硬貨のデザイン紹介 mohamoha47
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh「Olive Trees」
フィンセント・ファン・ゴッホ:Vincent van Gogh
「Olive Trees」
1889
Oil on canvas
私のブログでゴッホの作品を紹介するのは,これで17作品目になるのですが,同じページに同じ題材の作品を紹介するのは初めてです。
このページの最初に紹介したネルソン・アトキンス美術館にも同じ「Olive Trees」の作品があります。
両作を比べてみると,かなりの違いが見られます。
ゴッホ独特のうねりは両作に見られるのですが,ミネアポリス美術館の方が色遣いが激しい明るさで,上空の描き方はゴッホ特有のものを感じます。
ゴッホは「Olive Trees」の題材で計15枚の絵を描いています。
狩野山雪:Kano Sansetsu「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵):Taoist Immortals」
狩野山雪:Kano Sansetsu
「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵):Taoist Immortals」
1646
Ink, color, and gold leaf on paper
狩野派の江戸時代の画家,狩野山雪の襖絵がミネアポリス美術館にあります。
画像では3面しか映っていないですが,実際には向かって右側にもう1枚あり,計4面あります。
4面全てが写っている良い画像がありませんでした。
さて,この襖絵はもともとどこにあったかというと,京都市の臨済宗・妙心寺の塔頭(たっちゅう:師を偲んで弟子が同じ敷地内に建てた小寺)の襖だったそうです。
驚きなのは,この襖の反対の面(どちらが表面でどちらが裏面かはわかりません)にも,同じく狩野山雪の「老梅図襖」が描かれていました。
その2つの襖絵が別々に売られたそうです。
「群仙図襖」においては,4枚バラバラにされたそうです。
そのバラバラになった4枚を一つにして再度,襖として展示されているのがミネアポリス美術館です。
「老梅図襖」の方は,ニューヨーク・メトロポリタン美術館の和室の襖として展示されています。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵
狩野山雪:Kano Sansetsu
「老梅図襖(旧・天祥院客殿襖絵):The Old Plum」
1645
Ink, color, and gold leaf on paper
これで,ミネアポリス美術館の紹介を終わります。
今回はこれで終わりです。
今回のページで参考にしたHPは以下の通りです。(各美術館の公式HPは各項の最後に紹介しています。)
さて,これでアメリカにある美術館を独自ランキングで選んだ32,全てを紹介しました。
【アメリカの美術館32選!】シリーズはこれで終わりですが,次回は,まとめとして,これまで紹介した画家と作品,そして美術館を一覧にして,再度,一気に紹介したいと思っています。
お楽しみに。
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